「街に森をみる」:パリ① 渡川いくみ
この短いレポート「街に森をみる」は、〈おどりのもり〉プロジェクトにおける「創作はいつはじまるのか」という私自身の問いに対しての小さなアクションとして提示する。
ここでの「街」の単位は地理的な区切りに限らない。木々や様々な動植物が集うことで形成される「森」のように、ひとびとが何かのきっかけで集い、その土地に暮らしー「街」を形成して行く過程を、さりげない日常の1コマから紐解いてみたい。
今回の関心事は、フランス・パリ市での《Ludomouv'》という取り組み。
5月下旬までの2週間程、パリ15区に滞在していた私は、スーパーマーケットまでの道の真ん中に、1年前にはなかった赤いコンテナがどかんと置かれているのを不思議に思っていた。
ある日同じ道を歩いていると、そのコンテナの周りに親子連れが集まっているのが見えたので近づいて中を覗いてみた。するとコンテナの中には本や遊具がぎっちりつまっていた。
Photo:渡川いくみ
Photo: 公式サイトより引用(参考)
参考写真のように、ある時間になるとコンテナの一面が開かれ、外には机や椅子が並べられていて、コンテナの内外を大人も子供も自由に移動して好きなものを手にとって遊んだり学んだりできる。専門のスタッフも常駐している。
私の立ち会ったコンテナは5月限定のようで、開放時間は火・水・金曜日の16時〜19時まで(この時期のフランスは21時頃まで明るい)で利用無料、場所も小学校の目の前だったことから、迎えに来た親とその子どもが利用している様子だった。
《Ludomouv'》の公式ページによると、「大人から子どもまで全ての人がこの場所に集い、“le « mieux vivre ensemble » dans notre ville”:私たちの街で« よりよく暮らすこと »を実用的に提案している」とある。
ludoはラテン語の遊ぶ・学ぶを、mouv'はフランス語のmouvoir:動くを意味していると思われる。つまり移動式の遊び場ということのようだ。
日本の小学生の放課後の活動といえば、クラブ活動や習い事、塾、低学年では学童保育もあり得るが、いずれも子ども達の保護という観点や集中できる環境を整える目的から、閉じられた施設になりがちである。
私も小学1年〜3年までは学童保育、4年以降は塾と習い事通いだった。当時は不思議に思ったり不満に感じたりしたことはなかったが、決まったメンバーや時間割の中に殆ど一日中身を置き続けることは、偶発的に起こり得た出会いや体験の可能性を気付かず内に減らしてしまっていたことにもなるかもしれない。
対して、パリ市でのこの《Ludomouv'》という取り組みは、フランスの、放課後に親が子どもを迎えに来なければならない下校の流れに非常に合理的であり、小学生が学校生活から家庭環境に戻るまでの間に、”世代間交流”という時間を気軽かつ安全にはさみこむことができているように感じた。
学校でも家庭でも、ただ広い公園でもなく、帰り道の途中にちょっと立ち寄るだけの交流活動の場で、子ども達も大人達も”今日の出会い”を楽しみに遊ぶ。
《おどりのもり》でもそのような場所の実現について考えてみたい。
参考サイト
https://quefaire.paris.fr/rechercher?q=ludomouv&p=1
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