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「ワンシーン」レポート#2 白蛇伝

「ワンシーン」レポート#2 白蛇伝  たなべひろこ

「ワンシーン」と名付けたこのワークショップは、月に1回程度のペースで絵本を題材に身体表現を行うものです。

ひとつの物語をともに読み進め、からだを使ってその物語の世界を想像します。 踊りを通して物語を深く理解することが目標のひとつです。

今回は、『白蛇伝』を扱いました。

「白蛇伝」は中国における四大民間伝説の一つ。 (たとえば、おり姫とひこ星のお話も、この四大民間伝説のひとつです。)

「白蛇伝」はもともと「蛇が若い女性に化けて男性を襲い喰ってしまう」というお話で、 それが蛇と人間のロマンチックな恋物語にアレンジされて定着したようです。

日本では、初のカラーのアニメーション映画として『白蛇伝』が1958年に大ヒットしました。

このワークショップでは、趙非・翻訳、劉赦・絵『白蛇伝』(舵社、1996)という絵本の一部を用いました。

今回の課題は、いかにわたしたちが白蛇のような妖怪の存在をリアルに感じられるかということ。

妖怪は、ヒトの命の長さや体のサイズを、大きく超える生き物です。

そういう魔力を持った存在が、同じこの時、同じ空間に生きていて人間のなかに紛れ込んでいる…。

この『白蛇伝』の物語の世界観を、少しでも共有できるように、 まずは身近なところから妖怪を想像してみることにしました。

妖怪について紹介しているウェブサイトなどを参照しながら、

会場の周囲にある荒川や飛鳥山を風景として画用紙に描き、 そのなかに妖怪の存在を描きこんでいきます。

妖怪を想像するためのヒントをいくつか用意しました。

① ヒトと動物のどちらかはっきり分からない、どちらでもないしどちらでもあるような、中間であること

② 似ても似つかないはずのふたつの特徴が組み合わせることで、グロテスクで、妖怪独特の気味の悪さと恐ろしさを生むこと

(たとえば、小さいはずのねずみが巨大化したり、クモや蛇が若くて綺麗な女性に化けたりすること。)

③ 死んだはずのヒトが長い年月を経て変身したり、逆にとても長生きした動物が不思議な力を得てヒトに近づいたりすること

④ うらみ、いかり、みじめさ、うらやましさなど、強いネガティブな感情で攻撃すること。

正直なところ、ワークショップの前は妖怪がこの世に存在することをリアルに想像するなんて難しいだろうと思っていました。

しかし、わたしたち一人ひとりが日常のなかで戸惑った出来事を思い浮かべ、そのときの嫌な気持ちについて捉え直すことで、意外にも順調に「妖怪」を作り出すことができました。

バスの運転手のイライラした荒い運転のせいで乗客にまでイライラが伝染し、丸ごと巨大なワニのようになってしまったバスの妖怪、

カンカンに怒っているせいで大きくガニ股で地面を蹴るように歩くクレーマーの妖怪、

「置いていくよ!」と親に叱られている子どもをかたっぱしから誘拐してしまうおばあさんの妖怪…

この作業を通して、ネガティブな感情は伝達しやすく、発信源の誰かも、それを受け取ってしまった誰かも、どちらも「妖怪」にすることができることがわかりました。

そして、そういう体験がいくつも思い出されたことに、なんだか可笑しみと哀しみの両方を感じて複雑な気持ちになりました。

案外盛り上がって時間が過ぎてしまったのですが、ワークショップの後半は、これらの妖怪をもとに体の動きを考えました。

人間らしい動きからだんだんと妖怪の動きになり、さらに動物の動きに発展させる。そしてまた妖怪になり、ヒトに戻るという流れで動いてみます。

前や後ろといった動きの方向や、歩くときの速度、二足歩行のリズムなど、 日頃わたしたちが「普通」だと思ってしまっている動きはいくつもあります。

妖怪を手掛かりに生み出した動きには、「普通」への期待を突然裏切るような動きがいくつも見つかりました。

特に、歩き方の特徴については、足音が不規則だということに耳から気づくことができるという発見もあり、妖怪に遭遇するときの感覚を疑似体験した気持ちにもなりました。

今回は、『白蛇伝』を参考にした、人と妖怪の共存についてのダンス・ワークショップになりました。

理解しがたい現象や、自分たちとは違う存在への恐怖心を、説明して安心できるように生み出されたのが「妖怪」かもしれません。

踊りを通して、理解しがたいことや異質なものへの恐怖それ自体についても考え続けていきたいです。

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